『ピクミン』がかわいくてかわいそうなのは『生き物』として作り込まれたからだった

任天堂のゲーム
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どうも、みう太(@arai_miuta)です(ΦωΦ)

2023年7月21日にNintendo Switch(ニンテンドースイッチ)で発売された『ピクミン4』ですが、前作『ピクミン3』からおよそ10年ぶりの完全新規タイトルだったのもあって、非常に多くの人が待ち望んでいました。

現在無料体験版も配信されており、新たに追加された『氷ピクミン』や、頼りになるパートナー『オッチン』の活躍も手軽に体験できるのは嬉しいところです。

開発が意識したピクミンの『見せ方』

そんな『ピクミン』の1作目は2001年にゲームキューブで発売され、『スーパーマリオ』や『ゼルダの伝説』のような広大なフィールドを舞台にするのではなく、閉ざされた箱庭のような世界で無数のピクミンを引き連れる『AIアクション』が大きな話題になりました。

プロデューサーを務めた宮本茂さんの当時のインタビューによると、マリオと比べて対極の存在にしようと意識したらしく、確かにフォトグラフィックな世界観はこれまでの任天堂作品とまた一線を画していたように思います。

しかしピクミンは他のタイトルと比べてもかなり作り方が珍しかったらしく、例えばゼルダの伝説では仕様書の通りプログラムを組んでも、膨大なボリューム故かゴールが見えにくく『できているハズなんだけどな…』と手ごたえを感じにくかったのが、ピクミンはかなり早い段階で『できた!』という実感を持てたと振り返っています。

そして『ピクミンをどう見せるか』をさえしっかりと作り込んでいけばこのゲームは大丈夫だと宮本さんは判断し、それが結果としてピクミンはより生き物らしくなり、プレイヤーも愛着を持つきっかけになっているようです。

当初はただの『弾』として扱われていたピクミン

『ピクミン』の世界には『チャッピー』を始めとした数々の原生生物が生息していて、サイズの小さな主人公のオリマーやピクミンにとってはかなりの脅威でした。

対抗するには何匹ものピクミンを引き連れて突撃させるか、もしくは原生生物に目掛けてピクミンを投げつけ、体に張り付かせてダメージを与えていくのがセオリーになります。

しかしインタビューによれば当初の企画書は『ピクミンを投げたら敵を攻撃する』と一言で言い表せるシンプルなもので、いわばピクミンはオリマーが扱える『弾』としての役割しか持っていませんでした。

ところが、ピクミンが敵にぶつかってただ下に落ちるだけではどうしてもそれがピクミンには見えず、『生き物なんだから、投げつけたら敵に食いつくだろう?』と、相手に張り付いてダメージを与えるよう仕様が変更されたそうです。

実はプログラム的にはかなり難しいことで、何故なら攻撃の『ヒット』が『へばりつく』になるのはこれまでのゲームに取り入れたことがなく、結果的に『ピクミン』というゲームを象徴するアクションの1つになりました。

この『へばりつき攻撃』はあらゆる場面で活用できて、原生生物の弱的に貼り付けて継続的なダメージを与えたり、空中に浮かぶ『フーセンドックリ』などにくっつけて地面まで引きずり落としたり、攻略にも欠かせない要素として盛り込まれています。

そもそも宮本さんによればピクミンは戦っているのではなく、目の前のできごとに対応しているだけであって、それもよりピクミンが『生き物らしく』感じる要因なのかもしれません。

初代『ピクミン』はCスティックを倒すことでピクミンの隊列を作れましたが、当初は矢じりのようにスピーディに動いたり、ハートの形になったりとより高度な動きを目指したものの、どうしてもそれは『嘘っぽい』と感じ、もっと自由気ままで勝手に動く群れになったそうです。

実際にピクミンは指示を出しても素直についてこない個体がいたり、ちょっとした障害物に引っかかって動けなくなっていたり、途中にあったミツに気を取られて足を止めたり…、どこか思い通りにいかないからこそかえってピクミンに愛着を持つ人も多いのではないかと思います。

『ピクミンをどのように見せるか』を軸に作られた世界観

ゲームにおいて重要な役割を担うピクミンですら『自然の中の一部』として作られていた本作では、もちろん原生生物も『生き物らしさ』を意識してデザインされていました。

例えば原生生物はオリマーやピクミンに攻撃してきますが、それはあくまで『捕食』や『習性』にのっとったものであって、理由もなく危害を加える生き物は設定上そこまで多くありません

これも開発中に企画書から発展した要素で、原生生物はピクミンを『倒す』のではなく『ぱくぱくと口で食う』のであり、そのための捕食の動きも1つずつ作る必要がありました。

しかしこの動きもこれまでのゲームにはあまり見られなかった要素で、口の周りに引っかかったまま歩き続けたり、当初はバグも少なくなく、いかにピクミンが新しいコンセプトのゲームだったのかうかがい知れます。

それでも宮本さんはこういったバグを見たことでかえって『これはいける』と思ったらしく、ピクミンが自分勝手にどのように動くか、プレイヤーにピクミンをどのように見せるかさえとにかく作り込めば、このゲームはなんとかなる手ごたえを感じていたようです。

実際に宮本さんはディレクターやデザイナーにも『敵を作っているんじゃなくて、ピクミンを見せるために大事なものを作っているんだよ』と指示を出し、あくまでピクミンに比重を置いた作り込みを心がけていたのが分かります。

一方で本来もっとも愛着が湧くハズの主人公『オリマー』はかなり薄めの味付けで、任天堂の主人公の中ではやや個性が弱かったですが、その代わりに仲間や敵でバランスを取り、よりピクミンが引き立つキャラクター性に仕立てられていました。

宮本さんはそのバランスにもっとも成功している作品として『トイ・ストーリー』を例に挙げていて、ウッディが主人公として十分な活躍を見せながら、深い絆で結ばれた友人のバズや、不良少年のシドに改造されたおもちゃ達の印象も強く、より『ウッディの活躍』を前面に出すことに成功していたのかもしれません。

プレイヤーはオリマーを操作しているにも関わらず、常に目が行くのはピクミンの方で、だからこそ『ちゃんと仕事をしてえらいぞ』『ここは指示の通りちゃんと動いてくれ!』といった没入感が生まれているのだと思います。

フライングマンのように『あなたのために生きる』ピクミン

インタビューでの宮本さんは、糸井重里さんの『意外な評判はありましたか?』という質問に対して『あまり評判を聞いていないんです』と答えていましたが、広報の担当者は『テストプレイの女性社員が泣いてしまったこと』を明かしていました。

詳細はコメントされていませんが、どうやら自身の連れていたピクミンがチャッピーに食べられたときに泣いてしまったそうで、それだけ後ろを付いてくるピクミンに愛着を持っていたのだと思います。

今となっては『愛のうた』でも歌われていたように、ピクミンはオリマーに付き添って戦い、時には敵に食べられてしまうもの…と分かっていますが、確かに予備知識がなければビックリするかもしれません。

そしてピクミンといえばいかに犠牲を抑えてゲームをクリアできるか、突き詰めれば『1匹も犠牲を出さずにクリア』も目標の1つになり得ますが、宮本さんは犠牲の上にクリアするのも遊びだから、少しくらい失敗しても良いとカジュアルな考えを持っていました。

しかし一方で『ピクミンを死なせたくない』と思ってもらえるのは嬉しいことで、『ピクミンがかわいい』『死んだらかわいそう』という感想を多く見かけるのも、それだけピクミンに『生き物らしさ』が宿っている表れなのかもしれません。

糸井さんは自身がプロデュースしたスーパーファミコンのゲーム『MOTHER2』を引き合いに出して、このゲームには主人公のネスと一緒に戦ってくれる『フライングマン』というキャラクターがいるのですが、フライングマンは戦闘でHPがなくなった場合そのまま死亡してしまいます。

例えフライングマンが死んでしまったとしても物語の進行には一切関りがなく、生かすも殺すもプレイヤー次第ではありながら、『何とか死なせずに進みたい』と考えた人も少なくないはずです。

ピクミンもフライングマンも『あなたのために生きる』という点で共通していて、果たしてプレイヤーはそれをどう扱うのか…ここにゲームでありながら生き物に対するリアリティが生まれているようにも思えます。

その言葉の通り『吹けば飛ぶような存在』だからこそ、なんとなくピクミンの行動を眺め続けてしまったり、かけがえのない仲間のように思えてきたり、感情を揺さぶる魅力が詰まっているのかもしれません。

最新作でより強く感じるピクミンの『生き物感』

というわけで今回は『ピクミンは生き物らしさを大切に開発されていた』という話をまとめてみましたが、最新作『ピクミン4』を見れば、ピクミンのみならずオッチンや原生生物まで『生き物感』にあふれていました。

隊列の指示を出しているのに思い通りに動いてくれなかったり、途中に落ちているものに気を取られて止まってしまったときには『ちゃんと付いてきて!』と思うこともありますが、だからこそ上手に導いてあげたいという気持ちも湧いてきます。

しかし今でこそ慣れもありますが、確かにピクミンが捕食されるシーンはなかなかショッキングで、大量に食べられてしまったときは申し訳ないという罪悪感もあり、その可愛らしいデザインとは裏腹に没入感を得やすいのは大人…なのかもしれません。

初代『ピクミン』は『ピクミン4』と比べると説明不足な点も多く、狙った敵にピクミンを投げるだけでも難しいですが、2023年6月22日にニンテンドースイッチ版も発売されたので、これを機に遊んでみるのも間違いなくオススメです。

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